私の家ができるまで

新築建築までに起きた出来事 

30.本気

                                                                  

2021年6月27日 

打合せの中止願いを担当者さんに告げる前、朝一で同級生に連絡をしていた。

咄嗟の行動だった。

LINEを送る時、返信してくれるのを祈る気持ちだった。 

 

朝7:00

私    『おはよう。お願いがあるんだけど…。』

同級生  『なんだー。』

すぐに返ってきたLINEに思わず、安堵で顔がほころぶ。 

私    『いつもお客さんと打合せする時みたいに、家の話をさせてもらえないだろうか?』

同級生  『どーゆー事だ!!笑笑』

受け止めてくれる感触にまた顔がほころんだ。

私    『ごめん、そのままです。お願いします。』

同級生  『俺と?』

私    『そりゃそうです。』

同級生  『いつ?』

私    『いつなら大丈夫?』

同級生  『今日は打合せ入ってる。』

私    『今日はダメってこと…。』

同級生  『なにかあったわけ?』

いつもそうだけど、同級生の問い掛けは本当にありがたい。

私    『待って、今こちらから電話します。』

 

今日の打合せに行くのをためらっていながら連絡できずにいたが、意志が固まった。

(担当者さんに打合せの中止を伝えよう。)

自分の心に従って動く事を決心した。

 

朝7:30

私    『おはようごさいます。大変申し訳ありませんが、本日の打合せ中止させてください。体調優れませんので、今後のことは後日連絡いたします。』

 

その後、すぐに同級生に電話した。

同級生  「んで、なにしたよ?」

私    「打合せ中止にしてもらった。」

それを聞いて同級生は大笑いする。ちょっと心が救われる。

同級生  「何したんだ?」

私    「・・・・。なんだか行きたくなかった。」

ふたたび笑う同級生。

同級生  「なるほどね。そりゃ、そうだ。お前を知らないヤツがお前と打合せなんて出来るはずない。」

 

またしても救ってくれる言葉をくれる。否定しない、存在価値を認めてくれる言葉。今の私を大切にしてくれる。

私    「そうなの!?なんじゃ、そりゃ。」

だけどこの言葉に甘えた姿をみせられないから、ここは笑ってとぼけて返す。

発した声色は嬉しさが、どストレートに出ててるけど。

後日、会ってくれる約束をした。

 

朝8:30

担当者さんに中止の連絡を流した一時間後、LINEが返ってきた。

担当者さん「おはようごさいます。体調は大丈夫でしょうか?すみませんでした。私の対応により、体調不良になったことだと思います。」

 

(!!わかったんだ。自分が原因だって。)

これまで、担当者さんが憶測で語ることはなかったから驚いた。

そして察した言葉が嬉しかった。不思議なことに、今、とても辛いのに嬉しさがあった。

 

「今後のことに関しまして、ご連絡お待ちしております。」との言葉で締めくくられてたLINEに私は返信をしなかった。既読スルーというものでやり取りは終えた。

 

(担当者さん、あなたが嫌なのではない。家造りの話もしに事務所へ行きたい。行きたいけど怖いんです。家造りにあなたのプライベートが入るのが。)

 

これまで何度も伝えてきた願望は現実にはなれず、これ以上伝えることは私にとってとても危険な行為。

でも、このままでも私は担当者さんと家造りの話ができない。

はっきりと口に出すことは出来ない私の願望が、行き場なく停止することしかできない。

 

 

2021年6月29日

同級生の建築事務所を訪れた。外見は質素な平屋だが、入り口にはおしゃれで目を引く工務店のプレートが掲げてあった。

同級生  「おう。」

中に入ると、見たことない壁の柄のオープンな事務所が広がる。

私    「かっこいい事務所だね。」

OSBボードという壁材らしい。華やかで落ち着く空間だった。

事務所のテーブルで同級生と今の私の家について話をした。

これまでの施工の写真を見せてくれ、私の家造りについて助言ももらった。

 

(楽しい。こんなに楽しい時間を人と過ごすのは何年ぶりだろう。)

 

心から楽しく、こんなにも笑顔でいた時間はなかったと思う。

途中、同級生の息子さんがふらりとやってきた。

私    「こんにちは。お世話になってます。同級生です。」

ペコリと頭を下げてしっかりと挨拶を返す息子さんに微笑ましく感じた。

ジュースを買ってもらい、すぐに帰っていった。

 

同級生  「昔の俺みたいだろ。」

私    「んー、似てるかも。息子さんの方がイケメンだけど。」

第一印象の率直な意見だった。同級生の表情が固まった。

同級生  「ああ!?なんだよ。・・・・。」

(あ、まずい。少し怒ってる。・・・・素直な部分だ、珍しい。)

その後、ワイワイと中学校時代やクラスメートの話をしたりして過ごす。

 

工務店を営む同級生に聞いてみたい事があった。

私    「私の家への考え、プロから見てどうですか?」

同級生  「ん?いいと思うよ。」

私はやりましたよ!とガッツポーズ。

家が大好きで仕方がない。家と関われることは私の最大の喜びの時間。

 

帰り際、同級生が言ってくれた。

 

同級生  「いい家が建つのを楽しみにしている。がんばれよ。」

 

私の望む楽しい家造りの打合せが叶った。やはり、私の望む家造りの仕方はあるのだと確信できた。

施主が家造りだけのことが考えられる空間はあってもいい。

それを工務店に用意してもらってもいいと。

 

 

2021年6月30日

あれから沈黙をしていたが担当者さんにLINEを送ろうと決めた。

私    『施主が参加出来ない建築もないと思うので、問題を解決してから、工事を進めませんか?』

担当者さん『了解しました。施工工事は進んでおりますが、ストップした方がよろしいでしょうか?』

私    『また、こちらが考えなければなりませんか?』

担当者さん『任せていただけるのであれば、工事は進めさせてください。』

これに対して言える最大の発言力を探す。

私    『施主が打合せにいけなくても工事は行うってことですか?』

担当者さん『今までの打合せ済の工事に関しましては、施工させていただきたいです。』

たぶん、LINEではラチがあかないと気が付いた。

私    『話し合ってから決めたほうがよくないですか?』

担当者さん『了解しました。一度現場をストップさせていただきます。』

また堂々巡りの状態に苛立ちが出る。

私    『わたしの判断だけにしないでください。』

担当者さん『ですが電柱の建込み工事と外線引込み工事に関しましては電力会社に協力をいただいておりますので実行させてください。』

逃がさないという気持ちになって返した。

私    『答えになってません。』

担当者さん『ひとつの文章で送信するはずができなかったです。』

担当者さん『話し合いできるとしたら、いつ頃なりますか?』

私    『そちらが工事を行いたいならすぐに話さないといけないんじゃないですか?』

こんな言葉を人に言いたくはなかった。意地悪な発言をすることを恐れるが、ここまできたら解決まで導きたい。

担当者さん『今電話してもいいですか?』

私    『電話でも良いかもしれませんが、対面しないと私もそちらの意思がわかりませんので。』

担当者さん『ではこれからお伺いしてもよろしいでしょうか?』

私    『五時半にしてください。30分ぐらいなら時間作れます。』

あえての強気な態度を貫いて、それでも担当者さんが合わせくれるのかを測ったのだと思う。

担当者さん『ありがとうございます。了解しました。お時間を頂戴します。』

 

こんな事を言わせている自分は酷いと思う。

(担当者さん、ごめんなさい。だけど私も本気なんです。)

 

 

30分後    

 

ピンポーン。

担当者さんは私の待つアパートに訪れた。これまでの明るいテンションではない、声に暗さを滲ませ名乗って訪れた。

その声を聞いて私にも緊張が走る。

 

(もしかしたら、工事中止もあり得る話になっていくかもしれない。)

 

一歩間違えれば、工務店側から断られる事態もある。

 

工務店との契約を切らずに、相手の心を惹き付けるには・・・・どうする?)

 

玄関の扉が開かれ、担当者さんと私は対面する。

半畳ほどの小さな玄関で話した。

 

担当者さん「この度は本当に申し訳ありません。…体調はどうですか?」

私    「今は大丈夫です。ですが、色々考えてしまってます。」

担当者さん「・・・・私の対応力不足のせいで申し訳ありません。」

 

夏の暑い日、クーラーの届かない玄関先で担当者さんも私も汗が滲んでいた。

 

私    「もし工務店を変えるとしたら、どうなりますか?」

担当者さん「発注されている、協力会社へ依頼している部分まではこちらで行うことになります。」

私    「その後の引き継いでくれる工務店などの紹介はないですか?」

担当者さん「はい。そちらで何とかすることに・・・・。」

私    「そうですか。……こちら側にはデメリットばかりですね。」

 

(まだ、担当者さんの本心が見えない。)

交渉は不安を抱えたまま進む。

 

私の主張を聞きながら返答する担当者さん。一時間ほど経っただろうか。

 

私    「以前話をした工務店を営んでる私の同級生に電話したんです。」

担当者さん「はい。」

私    「お前を知らない者が、お前と打合せできるわけがないって言ってました。」 

担当者さん「・・・・。ならば教えてください。こちらが聞きたいです。〇〇さん(私の名前)とどうやって打合せしていけばいいのか?ご教示願いたいです。」

私    「頼めば…教えてくれるかもしれないですけど、多分難しいと思います。自分で何とかする所だと、それが厳しさというか経験というか、そういうものだと言うと思います。」

大人しく聞いていた担当者さんだったがこれに声を大きくした。

担当者さん「私はそれは違うと思います!相手の為に教えてあげるのが本当の人の優しさだと思いますよ!」

 

(なんて素直な回答なんだろう。純な心、私にはもうないな。)

 

担当者さんは終始仕事のカバンを胸に抱いたまま直立不動だった。

 

担当者さん「その同級生の方が話して頂けないならば、ならば私はご主人様に聞きたいぐらいです!どうすれば〇〇さん(私の名前)と上手く打合せできるのか。」

 

玄関に入ってからずっとカバンをぎゅっと抱えたままの担当者さんの姿をマジマジと見つめた。

(興奮してるから?暑さで?・・・・担当者さんの目が潤んでるように見える。)

ようやく担当者さんの本心が見えてきたと思った。

 

私    「すみません、それは主人にも言えないこちらの事情というものがあるんです。」

本当に言えない事が絡んでしまうため、主人から担当者さんへ教えるという事が出来ない旨を話した。

 

私    「出会った頃、打合せにご家族を入れたことがありましたよね?」

担当者さん「はい。」

私    「あれ、悩んで実は掲示板で質問したんです。これはあり得るのか?と。」

担当者さん「え?それでどうだったんですか?」

私    「皆、あり得ないと言ってました。」

担当者さん「それは…世間の意見がそう…なんですね。」

私    「調べたら履歴が残ってるかもしれません。見てみますか?」

担当者さん「いえ、いいです。ショックで立ち直れないかもしれません。」

私    「あの日、私達は紹介してもらった土地を一緒に見させてもらいたいと思いました。でも遠慮しざるえなかった。ですよね?来てくださいなんてあの状況の担当者さんに言えない。」

担当者さん「ええ、そうかもしれません・・・・。ですがこれはわかって頂きたい。私は小さい頃から工務店に来るお客様と共に生きてきました。事務所に家族が出入りしたりは当たり前のことなんです。お施主様からジュースをもらったり…家族ぐるみの工務店です。」

 

それを悪いとは私にははっきり言えない。むしろ素敵なくらいだ。ただし、私は違うと言う。家造りに気になるプライベートや、家造りと関わってない方を入れられたくはない。

 

私    「担当者さん、うらやましいです。この先もあなたは家造りに関わっていける。だけど私は大好きな家と関わるのは自分の家を建てるこの時しかありません。」

ああ、といった柔らかな表情をした。

担当者さん「・・・・。すみせんでした。それだけ大事なことでしたね。」

私    「はい。今、家と関われてとっても幸せです。」

 

解決策を模索することを担当者さんと話した。

私の口からははっきりと担当者さんのご家族にこうして欲しいと提案は出来ない。

出来るのは自分ならこうする、またはこういう世の意見がある。そんな所までしか。

 

私    「お互い生活をしてますから、制限をかけることはできません。どうすれば関わらずに相手の生活とこちらの打合せが出来るか、考えてみてもらえませんか。」

担当者さん「わかりました。具体的に何だとダメだとかありませんか?わかりません。」

私    「えっと・・・・。」

私なりに実は解決策はあったのだが、言いづらいので言葉に詰まる。

私    「お客さんと打合せ中、外に出なければならない事態もあるかと思います。生活してますから。車などで移動したり…すれば合うことなく…。」

担当者さん「なるほど。」

 

(答え、言っちゃんてんじゃん、自分・・・・。)

(しかも、なるほどって…本当にどうすればいいか分からずにいたんだ…。)

 

私    「これは1つ考えですので、担当者さんに合ったやり方でお願いします。」

とりあえず、言ってしまった案に擁護した。

 

この問題の大きな課題は担当者さんがご家族に話せるかどうかなんだと思っていた。

 

工務店が自分の家庭を軸にしてお客さんと接していくのか、お客さんを軸にするのか・・・・。

 

2時間かけて話し合った。

多くの方にはわからない家庭環境もある。そこにいる私の心に隠していた黒い感情を出しても担当者さんは受け止めた。むしろ肯定的に捉えてくれたりもした。

 

その間、ずっと担当者さんはカバンを胸に抱いたまま。

帰る頃には玄関は真っ暗で互いの顔が見えない。

 

だけど、心は見えた。

担当者さんの話を聞きながら、心でつぶやいていた。

 

(担当者さんにお願いした解決策が上手くできなかったとしても、その時は私が何とかします。    だから、ご家族に話してください。)

 

 

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