35.心配しないで、大丈夫
2021年9月5日
祖母が亡くなった。
午前中、ブログを書いていた時に兄からLINEで連絡がきた。
兄 『本日、婆さんが他界しました。』
すぐ返信すべきところなのはわかってる。
だけど、私はこれに連絡を取れない。
昔、起きたことが頭を駆けぬけ私の行動を防ぐ。
(ばっちゃん、ごめん。)
私には動けない私だけの理由があった。
数時間後、兄に連絡した。夕方になる一歩出前の時刻まできていた。
私 「ばっちゃんは何処にいる?」
兄 「〇〇市の〇〇堂にある霊安室にいる。」
私 「私一人、今から行ったら会うことはできる?」
兄 「俺が鍵を持ってるが、葬儀屋の方で誰かいれば入れるかもしれないが…
。」
私 「わかった。ありがとう。連絡してみます。」
すぐに電話すると運良くまだ葬儀屋には人がいた。
霊安室に到着すると係の方が入り口で中へと誘導してくれた。
こんな時の礼儀などはまだ知らない。
知らないけども自分の良心とそこにばっちゃんが眠っていることから導き出した行動をする。
玄関で一礼して、中へ入る。
係の方 「どうぞお水を上げてください。お顔を見るのは…できますか?」
私 「はい。」
横になって眠る祖母の顔にかけられた白い布を外す。
(キレイな顔だ…。)
水を飲ます。
(まだ元気に生きてた時と変わらない。)
祖母の顔からは苦しさが感じられなかった。頬はふっくらしていて、髪もフサフサと柔らかい白髪頭で。
(良かった。苦しくなくいけたか…。)
後ろの部屋では係の方が終わるのを待ってくれていた。
(こんな時、何と言葉をかけたら何をしたらいいのだろう?)
人の最期、お別れはどうすればいいのかがわからない。
どうしたいかも自身の考えも持たずやってきた。
ただ、手元にあるのは咄嗟に手に取ってきた私の家の外観図だけ。
(今、私とばっちゃんしかいない。話そう。)
家の外観図を膝の前に広げて、そこに向かい合って座るばっちゃんがいると思って話す。生前、まだ実家にいた頃、色んな話を聞いてもらった時のように。
会話は誰も入ってこない、私とばっちゃんの心の中で。
〖家を建てます。自分の家を建ててるところ。だから心配しないで。
ちゃんとやれてます。仕事も行けてます。
私、しっかりしてませんか?今、沢山の良い人間関係に恵まれてます。いい人達が側にいます。
だから心配ないです。これだけしっかり出来てます。〗
家を建てることを伝えたら、きっと安心すると思った。
何より祖母に自慢したかった。
そして、人の中で上手くやれなかった私はもう違うのだと見て欲しかった。
祖母の顔を触る。
(そんなに冷たくも固くもない。)
あまり死んでる実感がなかった。
喉ぼとけのすぐ下に手を置いた。まるで祖母はただ眠っているだけのように、私の目には寝息を出しながらゆっくりと動く心臓が見える。
(生きてる?・・・・・。)
そんな訳ないのに、何度も手を置いて確かめてみると、やっぱり肩がゆっくり動いてるように見える。
生き返ってほしくてやってるわけではないけど、手を当てる度、祖母の安らかな眠りを見てる気がして優しいものが流れてくるようだった。
〖ばっちゃん……。苦しまなかったですか?辛いことはなかったですか?あなたの人生は良かったですか?
きっとばっちゃんは好きなように楽しく生きてきた人だから、先にいる祖父の所に辿り着くまでの間、あちこち立ち寄って楽しく歩いていくでしょうね。それでいいですよね。あなたらしくていい。
私もそんな似ている部分がある気もします。〗
白い髪を撫でる。
〖私はこの先もしっかり生きていきます。心配しないで、大丈夫。〗
祖母と話は出来たが、どのタイミングで帰るのかピンとこない。
ピンとこないのは、お別れ方を知らないからだ。
もう最期となる祖母との接触。
係の方が待つなか、いつまでもここに居られない。考えた。深く深く考えて、そして思いつく。
〖ばっちゃんが穏やかに死後の世界でいることを、あなたが平穏無事でいられるように祈ります。神様か仏様か……ばっちゃんをお守りしてもらうため伝えます。安らかにいられるように私がしっかり祈ります。強く祈りますから、大丈夫だから。〗
姿勢を正し、眉間の前に手を合わせて目を閉じる。
祖母の幸せを見えない上の偉い方と運命に祈った。
〖私、愛ってものを与える人になってるの。きっとそれが私という人間なの。それを最近、沢山の良い人間と出会ってわかったの。私の念は強いから、きっとあなたを救います。〗
そして祖母から離れることができた。
お別れが出来るようになった自分を誇らしく思えた。
何をやっても納得できる生き方が出来ずに苦しんだ期間が長かったから、この行動が出来たこと、本当に誇りに思える。
人と仲良くする事が出来ず、その内自分がどんな人間だったかも忘れ、自信も失くした私のこれまでの十何年間。
家造りがきっかけで、ようやく”私”を取り戻すことが出来た今。
涙と鼻水、隠してくれるマスクをこんなに有難い存在と思ったことはなかった。
2021年9月8日
火葬場に立つ。
残念ながら焼かれる前の祖母に会うことは叶わなかった。
他の親族と待合室で火葬が終わるのを待っている兄に話しかけた。
私 「さて、ばっちゃんとBTS、一緒に聴いて来ようかな。」
兄 「ああ?BTS??何だそれ。」
私 「BTSよ。いっつも聴いてる。ばっちゃんと一緒に聴きながら話でもしてくる。」
親族の方の一人が兄に「韓国のアイドルだよ。」と説明しいているのを見ながら、耳にイヤホンをかけスマホをポケットにしまいフワリと席から離れた。
火葬場で焼かれている祖母の顔の大きな写真を眺めながら、BTSを再生する。
耳元のイヤホンから曲が流れてる。私はばっちゃんと一緒に聴いている。
〖今好きなアーティスト。いいでしょ?気持ちが上がるから一緒に聞こう、ばっちゃん。〗
私の好きな曲を聞いてもらいながら、変われた私の毎日の姿をばっちゃんに届くように頭の中の記憶のフィルムに流してみる。
〖見えますか?私の姿が。職場の声をかけてくれる皆んなから優しいナイト様までいてね…、そこで振る舞う私の姿はこんな感じです。
素敵な出会いをした工務店の方もいます。家を造ってる私はびっくりするほどの行動力です。とんでもない事が起きてます。
これが、変わることが出来た私の周りの世界です。今、私の目に映ってる世界はこんなにも輝いてるから。〗
だから、心配しないで。
亡くなる3日前に兄から送られてきた祖母のビデオ再生には、私の名前を何度か呼びかける姿があった。
その時はもって一週間か十日と言われた。
あのビデオに映る祖母の顔からお別れの日がこんなにも早く来るなんて思いもしなかった。
「こんなに元気だし、まだまだ死なないと思う。」
そんな事を夫に言った私は間違っていた。
後からまた祖母のビデオ再生をした時に気になった部分があった。私の名前を読んで、そして防ぎがちに目を向けたところでビデオはストップしていた。
心配しないで、ばっちゃん。私は大丈夫。
それを伝える事がとても重要なのだと思って、直接言うことは叶わなくなった祖母の心に届かせるため何度も呼びかける。
お家が出来たら、またばっちゃんの事思い出して、じっちゃんも一緒に思い出して、私のお家が2人に見えるようにしっかり心で届けよう。