10.間取り
2020年10月
農振除外の申し出は売主、買主の連名となる。未だ工務店への警戒心を解けずにいた私は、連名の押印さへも売主の印を見てから私達が押しますと告げた。
しかし、押印しに行ける日を提出期限まで確保出来ず、売主さんより先になっても構わないと伝え、月初め早々出向くことになった。
そこには、しっかりと売主の印が押されていた申請書があった。
良かった。対応が早い売主さんと工務店さん、最高ですと心の中だけで思う私。まだ警戒心を解くわけにはいかずにいる。
売主、買主の印も押され必要な書類も揃った。後は土地改良区の意見書なるものが届けば、無事申請書の提出が出来る。まずは安堵する。しかし、この先続く農地転用を考えると不安と安堵の繰り返しが見え、私のノミの心臓への負担が半端なかった。
担当者さんから「間取りなんですが…。」と話が出た時ドキッとする私。平屋と決まってから実は密(ひそ)かに考えてきていたので見てもらいたくて仕方がなかった。方眼紙の小さなメモ帳を開いて見せた。
「なるほど…。」と言って、担当者さんはマジマジと描いてきた間取りの内容を見つめ、写真をスマホで撮り始めた。これをパソコンで正書してくれるという。
自分達の家を好きなように描けるのはわくわくした。楽しかった。とはいえ素人だしプロの方の間取りの方が良いだろうと思い、担当者さんにも作成をお願いした。その際、いくつか私達の希望する住宅の聞き取りがあった。
坪数は自分達の可能な予算から計算し27坪とした。
後日、作った間取りで打合せ。私は主人の希望をほとんど聞かずに自分で考えた間取りが2パターン、担当者さんは1パターン考えてくれていた。
担当者さんがデジタルで正書してくれていた間取りがテーブルに並べられる。
【私の考えた間取り1】
【私が考えた間取り2】
【担当者さんが考えた間取り】
正直、担当者さんの考えた間取りは好みではなく、何となく作り方も雑な気がした。
しかしはっきり言い出せずまごまごとしながら間取りついて意見を出してると、パソコン作業していた社長が私達の所へやってきて、こう告げた。
「家は住む人が良いと思う間取りにした方が絶対いいから!その方が後悔しないし、もし出来上がって不満が出てくる所があっても、自分達が選んだものは納得するから。」
この言葉のおかげで、担当者さんの間取りに遠慮することなく意見が出しやすくなり、住む人が良いという間取りが大事なんだと改めて感じた。
社長の言葉に後押しされ、私はこれまで自分の頭の中にあった理想の家のアイデアを担当者さんに伝えた。
玄関を開けてすぐのリビングだと生活が丸見えなので避けたい。
作り付けの棚は掃除が楽だし、すっきりとした家になるから欲しい。
腰ほどの高さの壁。これは光とプライベートを兼ね備えつつ布団を干したりでき、雰囲気が出る住まいになるのではないか。
etc......
今まで言う機会がなかった私の思う良い家の話をした。
言葉で伝わらない所は絵を描いて見せた。担当者さんも身を乗り出し、耳を傾けてくれた。社長も賛同しながら私や夫の話を聞いてくれた。
この時私はずっと思い描いていた、聞いてもらいたかった夢の間取りを、熱く語っていた。何十年もずっと言いたかった、夢だと思っていた私の家の話が口からあふれ出す。
夢が現実になる。とても幸せだった。