8.少しづつ出てくる疑惑
2020年9月
話合いのため事務所に赴くと、そこには担当者さんの他に社長もいた。担当者さんの前に座ると開口一番、担当者さんは大きな声でこう言った。
担当者さん「もし土地家屋調査士さんに頼んだ場合、費用が10万円ほどかかってしまいますけど、いいですか?」
途端、奥にいた社長がつかさず飛び込んでくる。担当者さんを置いて私達への説明が怒涛のごとくはじまった。
はじめは社長の説明を聞いていた。いつの間にか先日の担当者さんの発言はどこかに飛んでいっていた。
途中、社長の意見には賛同できない事を言われ、私も考えを挟み込む。しかし社長の言葉に押し戻される。何度かそんなラリーが続いたと思う。この時、どれだけ自分が頭を働かせたかわからない。話す言葉を選び出し、返ってくる言葉も的確に処理しなくてはいけない。私は土地の事など工務店より分からぬ者。集中と緊張感を切らしたら相手の耳には通らなくなる。
2人で論議している間、夫と担当者さんはほぼ置き去り状態。社長の言う事が不動産業界で正しいとしても、私の心配している事もある。喧嘩ではないがこれはどちらの考えを取るかどうかの話し合いで、双方の大事なものがかかっていたんだと思う。だから簡単には譲らず止まることのない言葉のラリーが続いた。
結果、最終的に社長に押される形になった。
途中で言われた賛同できない事というのが、農振除外と農地転用の申請を行政書士さんを頼まず、目の前にいる担当者さんに任せると言った事である。
間違いなくあの土地を手に入れたい私は確実な線をお願いしたかった。資格のある方なら法に基づいて動くだろうから信頼できるし、失敗という事もないだろうと思っていた。数万円の依頼料がかかると言われたが、それで確実に土地が手に入るなら構わないとはねのけた時、社長に言われたのは「そうやって、担当者は成長していくから。」という言葉だった。
それはそちらの都合では?それで私達の土地の入手が上手くいかなかった時、どうするんですか?
心にはそうあったが、言った所で「大丈夫。」と返されるだけだろうと思い言わなかった。「無料で引き受けるからお金がかからず済むんですよ。」とも何度も言われた。私はプロでもないから分からないだけで、社長の言う通りなのかもしれない。これ以上踏み込んだら面倒なお客さんと言われるかもしれない。
この時、頑なにこちらの意見を聞き入れてくれないのか不思議で、思わず何か裏があるのかと悪い事を考えてしまっていた。
社長に説き伏せられたような形となり、担当者さんは社長の言った事をもう一度ホワイトボードに書き出しながら私達に説明をする。
担当者さんに聞いた。
私 「今までこの申請の経験はありますか?」
担当者さん「ありません。」
もう任せるしかないのだろうと諦めるしかなかった。
次の日の朝早く、私は担当者さんと電話で話たかったが連絡がつかなかったので、すぐに社長へ電話した。湧き上がった不安から早く伝えたい衝動でいっぱいに駆られていた。
行政書士さんに頼まない選択肢。それで失敗など起きた場合に、了承した私達の選択でしたと言われても困ると想像した。何か起きた時の為にも、これは私達の意志ではなくそちらが行った事として、上手くいかなかった責任を取ってもらおうと考えた。そして申請で法律に触れるような事が万が一起きた時の防衛策としようと思った。
上手くいきませんでしたでは終わらせられない。
どうしてもあの土地を手に入れたい。
私は心に余裕がなくなっていた。
社長から知り合いの行政書士さんをもし良かったらご紹介できますとメールが届き、昨日と違ってこちらの要件ものんでくれるのだと安心したが、何でもない事なのに自分の我を通したとして避難されるかもしれないと逆に気になり始めた。判断はあくまでそちらに委ねた事にしてもらう必要がある。
私 『農振除外について行政書士さんに頼むかどうかなどは、担当者さんと売主さんにお任せします。』
そう伝えた。
そのあと、朝に連絡が繋がらなかった担当者さんにも社長と同じ内容を電話で伝えた。言いたい事だけ言って電話を切ってしまった。
工務店さんに嫌な自分を見せてしまったとひとりショックを受けていた。
きっと今頃、社長も担当者さんも私の言葉に憤りを感じているだろう。嫌なお客さんだなって言われてるだろう。
(・・・・。だけどこのままじゃ私達のリスクが大きすぎるじゃないか。)
心に眠る工務店さんへの不信感と不安感。農振除外の申請許可がおりるまでは完全に消すことはできないだろう。結果が出るまではこの担当者さんを信じるわけにもいかないと守りに入っていた。心の片隅で疑惑を持ちつつ、これから家づくりの話をしていかないといけないのか。
参ったな。
これがダメなら、もう土地探しから始める気力なんて出てこない。
もう二度も何度も、家造りがダメになるなんて嫌だ……。
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